省エネ計算のやり方
初めての実務者向けに、手順を6ステップで解説します。
2025年4月から原則すべての新築住宅で省エネ基準への適合が義務化され、「初めて自社で省エネ計算に向き合うことになった」という工務店・設計事務所が急増しています。この記事では、何を・どの順番で進めるのかという全体像を、一級建築士が6つのステップに分けて整理しました。細かな計算手法ではなく、進め方と必要な準備、そして工数の目安がつかめることを目的としています。
省エネ計算の全体フロー
STEP 0|前提を決める(地域区分と評価ルート)
最初に決めるのは「どこに建てるか(地域区分)」と「どの方法で評価するか(評価ルート)」の2つです。ここを取り違えると、後工程がすべてやり直しになります。
① 地域区分を確認する
省エネ基準では全国を地域区分1〜8に分け、寒冷地ほど厳しい基準を課しています。区分は市町村単位で定められており、同じ県内でも分かれます(例:福島県は2〜5地域、千葉県は5〜7地域)。必ず建設地の市町村で確認してください。
② 評価ルートを選ぶ
住宅の評価方法には次の3つのルートがあります。
| ルート | 外皮性能 | 一次エネ性能 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ① | 標準計算ルート | 標準計算ルート | 部位ごとに積み上げる精緻な方法。数値が明確に出る |
| ② | 仕様ルート | 仕様ルート | 仕様で判断する方法。省エネ適合性判定は不要 |
| ③ | 仕様ルート | 標準計算ルート | 2023年10月から。外皮面積を図面から計算する必要がない |
※ ①と③は省エネ適合性判定が必要です。本記事は、数値が明確に出て応用も利く①標準計算ルートを前提に解説します。
STEP 1|必要な資料を揃える
省エネ計算は資料が揃っているかどうかで所要時間が何倍も変わります。着手前に次を確認してください。
- 図面:平面図・立面図・断面図・矩計図(寸法が確定していること)
- 建具表:窓・玄関ドアの品番、寸法、ガラス仕様、付属部材(シャッター等)
- 断熱仕様:部位ごとの断熱材の種類・厚さ、下地・構造材の構成
- 設備仕様:暖冷房・換気・給湯・照明の機器品番と効率
- メーカーの性能証明:サッシの熱貫流率・日射熱取得率、給湯機の効率、節湯水栓・高断熱浴槽の証明書 など
STEP 2|外皮面積を拾う
図面から、外気に接するすべての部位の面積を拾います。対象は屋根・天井/外壁/床・外気床/土間・基礎/窓・ドアです。
ポイントは「方位別に分けて拾う」こと。窓や外壁は方位によって日射の入り方が変わるため、東西南北などの方位ごとに集計する必要があります。方位を意識せずに面積だけ拾ってしまうと、後で全部やり直しになります。
成果物:部位別・方位別の求積表STEP 3|部位U値を計算する
外壁・天井・床などの部位ごとに、断熱材や下地材の熱伝導率λと厚さdから熱の伝わりにくさを積み上げ、部位の熱貫流率U値を算出します。
木造では柱や間柱などの熱橋(ヒートブリッジ)が必ず存在するため、一般部と熱橋部を面積比で加重平均する面積比率法で求めるのが一般的です。断熱材が同じでも下地構成が違えばU値は変わります。
成果物:部位ごとのU値(W/(㎡・K))STEP 4|UA値・ηAC値を算出する
STEP 2の面積とSTEP 3のU値を外皮計算シートに入力すると、建物全体のUA値(外皮平均熱貫流率)とηAC値(冷房期の平均日射熱取得率)が算出されます。
※ 床面積ではなく「外皮面積」で割ります。値が小さいほど高断熱。
算出したUA値を、地域区分ごとの基準値と照合します。省エネ基準(外皮基準)のUA基準値は、この値以下であることが求められます。
| 地域区分 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 省エネ基準 UA | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | 0.87 | ― |
| 誘導基準 UA | 0.40 | 0.40 | 0.50 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | ― |
※ 単位はW/(㎡・K)。8地域はUAの基準がなく、冷房期の日射熱取得率(ηAC)で評価します。誘導基準はZEH水準に相当します。
基準を満たさない場合は、断熱材の厚み・サッシのグレード・日射遮蔽などの仕様変更を検討して再計算します。ここが設計としての腕の見せどころです。
成果物:外皮計算書(UA値・ηAC値と判定)STEP 5|一次エネルギー消費量を計算する
STEP 4で得た外皮性能に加え、暖房・冷房・換気・給湯・照明などの設備仕様を、国が提供するエネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)に入力します。太陽光発電やコージェネレーションを設置する場合はそれも入力します。
入力が終わると、設備用途ごとの設計一次エネルギー消費量と基準一次エネルギー消費量が算出されます。
成果物:一次エネルギー消費量計算結果STEP 6|判定して帳票を出力する
省エネ性能の指標BEI(設計値÷基準値)を確認します。
- 省エネ基準:BEI 1.0以下で適合
- 誘導基準・ZEH水準・長期優良住宅など:BEI 0.8以下が求められます
適合を確認したら計算書を出力し、外皮計算書・一次エネルギー計算結果・各種性能証明をまとめて省エネ適合性判定に提出します(評価ルート①・③の場合)。
成果物:提出書類一式初めての人がつまずきやすいポイント
- 地域区分の取り違え:県名で判断してしまう。区分は市町村単位です
- 方位別に拾っていない:面積だけ集計して後戻りになる、最も多い手戻り
- 熱橋の扱い:一般部だけで計算してしまい、実際よりU値が良く出てしまう
- 土間・基礎の入力:新旧の計算法があり、選択を誤ると値が変わる
- 性能証明の不足:品番は分かるが根拠資料が手元になく、申請で差し戻される
- 仕様変更後の再計算漏れ:サッシや断熱材を変更したのに計算書が古いまま
工数の目安(外注を判断する材料に)
| 状況 | 所要期間の目安 | 内訳 |
|---|---|---|
| 初めて/資料が未整備 | 約7日 | 資料集め・図面の整備・仕様確定を含む。制度や入力方法の習得時間も必要 |
| 資料が揃っている | 1〜2日 | 面積の拾い・U値計算・入力・帳票出力に集中できる状態 |
※ 戸建住宅1棟あたりの目安です。建物の複雑さ・仕様変更の回数によって変動します。
ポイントは、時間の大半が「計算そのもの」ではなく「資料集めと図面の整備」に費やされることです。逆に言えば、資料さえ揃っていれば工程は一気に短縮できます。
どこまで自社でやり、どこを外注するか
すべてを自社で抱える必要はありません。実務では次の3パターンに分かれます。
| パターン | 自社で行うこと | 向いているケース |
|---|---|---|
| 全部を外注 | 図面・仕様の共有のみ | 担当者を置けない/件数が読めない/急ぎの案件 |
| 一部を外注 | 設備の仕様決定など。外皮計算や面積の拾いを外注 | 手間のかかる部分だけ切り出したい |
| 質疑のみ相談 | 計算は自社。判断に迷う点だけ確認 | 基本は内製化したいが、確認先が欲しい |
特に「STEP 2の面積の拾い」と「STEP 3の部位U値計算」は手間と経験を要する一方、切り出しやすい工程です。ここだけ外注して、設計判断は自社に残すという分担も有効です。
省エネ計算、まるごと外注できます。
外皮計算+一次エネルギー計算を、一級建築士が直接対応。全国対応・寒冷地(地域区分1・2)の実績多数。
「計算して終わり」ではなく、基準クリアに向けた仕様提案まで伴走します。質疑のみのご相談も歓迎です。
【出典】本記事の基準値・評価方法に関する記述は、国土交通省補助事業「住宅の省エネルギー基準の解説 評価方法2024(戸建住宅編:木造、鉄筋コンクリート造)」(表1.2.1/表1.2.2/表6.3.1/表7.1.1/図1.2.7/図6.3.1)に基づいています。地域の区分は建築研究所の公開情報(https://www.kenken.go.jp/becc/house.html)もあわせてご参照ください。制度・基準は改正される場合がありますので、実際の設計・申請時は最新の告示・公式資料をご確認ください。工数の目安は当方の実務経験に基づく参考値です。